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アラフィフのおっさんが趣味の登山・写真・日常を綴るブログ。

「山は逃げない。」 〜那須連峰・朝日岳での遭難事故に思うこと〜 【'23/10/25更新】

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【2023/10/25 更新】

ここのところ記事を賑わせている北アルプスの道迷い遭難事故を目にし、改めて先日投稿した朝日岳遭難事故の「その後」が分かる記事を探しましたが、残念ながら見つかりませんでした。ただ、10/14付の記事☟で、遭難者の一人が前日宿泊していた三斗小屋のご主人のコメントで、私と同様「山は逃げない」と仰っていたのが印象的でした。

 

さて、今回の記事更新は自己の反省も込めてのものです。

上記北アルプスの遭難事故の記事によると、伊藤新道から入山した登山者二人は、「スマホの電池が切れGPSが使えなくなった」「予備バッテリーを持っていなかった」「紙地図を持参していなかった」とのことです。

北アルプスでも難易度の高い伊藤新道で、予備バッテリーも紙地図も無いのでは致命的だと思いはしたものの、「自分はどうか」と自問しました。

私は必要以上のキャパを有する重たい予備バッテリーは常に持参して登山しますが、最近は紙地図を持ち歩かなくなっていました。実際、登山で何事もなければ紙地図を見ることは殆どありません。でも、①もし予備バッテリーが何かの拍子に壊れたら、②接続ケーブルが壊れた・無くなったら、③スマホが壊れたら、といった場合に道迷いするリスクがぐんと上がることに気付き、反省しました。

今後の山行では紙地図を必ず持参しようと思います。

一方で、(ちゃんとスマホが動く限りにおいては)スマホの登山地図・GPSトレース機能は絶大な効果を発揮します。特に私のようにナイトハイクする場合は、(暗闇でルートが見通せないため)コースを外れることがよく有り、その際にコースと自分の位置を瞬時に確認できるスマホGPSアプリはなくてはならないツールとなっています。

シニアで往年のハイカーの中には紙地図にこだわる方もいますが、それでもバックアップとしてスマホ登山アプリは搭載して頂きたいなと思います。

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こんにちは、GreenFielderです。

本日は、報道直後から気になっていた、那須連峰・朝日岳での遭難事故について、山岳遭難に関する著書も多い羽根田治さんのコメントが記事になっていたのでご紹介するとともに、私の経験に基づく思いをお伝えしたいと思います。

president.jp

まず、亡くなられた4名の方々には心よりご冥福をお祈り致します。

おそらくご本人達も「紅葉の那須登山」を楽しみにしていたであろうことは想像に難くありません。それがこんなことになろうとはご本人達も想像していなかったと思います。

何故このような痛ましい事故が発生してしまったのか。当事者でもなく、状況を詳しく知らない私が今回の遭難事故の原因について述べる立場にはありませんが、那須連峰、そして紅葉の山を愛する者としてコメント致します。

 

1. 那須連峰、そして朝日岳とは

まず、この記事を読んで頂くにあたっての予備知識としてこの山の特性を述べます。予備知識無くしてこの遭難事故の持つ意味は分からないだろうと思うからです。

那須連峰は、栃木県の最北部に位置する標高2000m弱の山々の総称で、「那須岳」という山は有りません。

一般的に「那須岳」と言えばこちらの茶臼岳を指す場合が多い。

那須連峰の代表的な山は、今回の朝日岳と、茶臼岳・三本槍岳です。

那須連峰は、周辺の日光や福島三山(磐梯山・吾妻山・安達太良山)と同様に紅葉が美しいことで知られています。

有名な姥ヶ平からの茶臼岳の紅葉。

朝日岳の紅葉。

朝日岳山頂からの紅葉。

姥ヶ平の紅葉と裏那須の山々。

那須連峰の紅葉。

また、約1500m地点に駐車場が有り、且つ茶臼岳には1700m付近までロープウェイが有り、気軽に紅葉登山ができるとあって、秋の紅葉シーズンになると沢山の観光客・ハイカーで賑わう山です。

茶臼岳への登り途中にロープウェイ駅を見下ろす。

但し、添付の記事の中にも記載がある通り、那須連峰は強風が吹くことでも有名です。私が一昨年の秋(10/3)に那須連峰を歩いた時も、日の出前後の朝日岳山頂は暴風が吹き荒れ体感温度は氷点下でした。

朝日岳山頂。この日も暴風が吹き荒れてました。

また、全般的に穏やかな山容の那須連峰の中でも、朝日岳だけは岩峰で、ルートにも危険箇所が有ります。

茶臼岳からの下りから朝日岳(中央右)を望む。左手前の赤い屋根が「峠の茶屋跡」。

鋭峰、朝日岳

これらを踏まえて、あらためて添付の記事と、この後の私のコメントを読んでみてください。

 

2. 遭難事故の概要

今回の遭難事故は、朝日岳で発生しました。ただ、朝日岳と言っても山頂ではなく、茶臼岳方面に少し下った地点で発生しています。遭難者は二つのパーティーで、2人パーティーのうちの1人が朝日岳直下の分岐地点、もう一つのパーティーは3人で、いずれも朝日岳と「峠の茶屋跡」という避難小屋を兼ねる地点の中間地点で、それぞれ発見され、死亡が確認されたとの報道でした。

同じく報道によると、当日は暴風が吹き荒れ、視界も殆ど効かないような悪天候。ロープウェイも、下山者用に運行した後運行を中止していたそうです。

2人パーティーの1人から通報を受け現場に向かった救助隊も、峠の茶屋跡で暴風のため二次被害を懸念して一度捜索を断念していることから、暴風の程度が尋常でなかったことが容易に想像できます。

なお、もう少し俯瞰的に状況を見てみると、9月末頃までは例年になく暖かい日が続いていたのが、10月に入り急激に冷え込んできたのは記憶に新しいことと思います。

 

3.思うこと

「またしても」

この遭難事故報道を受け、私が最初に思ったことでした。つい先日も☟の記事の中で気象遭難について書いたばかりでした。

onedayhike.hatenablog.com

それがまたしても起きてしまった、と残念な思いでいっぱいです。

毎年のように発生する痛ましい秋山での遭難事故。私はその原因は添付記事にある通り、①秋山の天候の想定不足、②登山決行判断の誤り、そして今回の件では、③「難しくない山」という認識、もあったのではないかと想像しています。

①秋山の天候判断の難しさは添付記事にある通りで、その日の天気によって「暖かな秋晴れ」の時もあれば、「極寒の冬山」並になる時も有ります。余程の経験者で無ければ「極寒の冬山に行こう」とは思わないでしょう。秋山はそんな日も有るのです。

②また、これだけ天候が悪い中で登山をすること(2人パーティーについては山中の温泉小屋から下山すること)を決めたのは何故なのか。これについては細かい状況・背景を知らないのでなんとも言えません。

③最後に付け加えたいのが3つ目。冒頭にも書きましたが、一番標高の高い地点にある駐車場から朝日岳・茶臼岳の分岐がある「峠の茶屋跡」までは、普通に歩いて1時間半程度で到達できます。しかも、峠の茶屋跡は上述の通り避難小屋を兼ねていて、いざとなればそこに避難して風を凌ぐこともできます。今回遭難して亡くなられた方々の発見場所は、普通に歩いても数十分でこの峠の茶屋跡に到達できたはずの地点です。何を言いたいかというと、「いざとなっても近くに逃げ場がある」という認識が、登山決行可否の判断を誤らせてしまったことは無いか、という事です。これは低体温症の恐ろしさと直結します。

私が読んだ山岳遭難に関する文献の中で、低体温症は「体温が一定レベルを下回ると急激に症状が現れる」と有りました。そして、脳機能が低下し、正常な判断や行動ができなくなってしまうと。

つまり、低体温症が発症してしまうと、どんなに避難小屋が近くにあっても、自力では到達できなくなってしまうのです。そして、その動けなくなってしまった人を運ぼうとしたパーティーの仲間が疲労して動けなくなったり、見捨てられずその場に停滞した結果その人も低体温症に陥るというケースは、過去の遭難事例にも有ります(上掲の私の過去記事に事例となっている遭難事故のリンクが有ります)。

「近くに逃げ場が有る」という条件は、登山決行可否判断を誤らせる原因になってしまうのではないか、と思っています。

 

4. 秋山登山の魅力と怖さ

以前の☟の記事で紅葉登山の素晴らしさを紹介した手前、今回の朝日岳遭難事故について書かないわけにはいかないな、と思い筆を取りました。

onedayhike.hatenablog.com

前言撤回をする訳では有りません。私は秋の紅葉登山は1年でも最も楽しみにしている機会で有り、現に一昨日も福島の山で素晴らしい景色に出会えました。

でも、上述の通り、秋山は夏山の数倍も低体温症のリスクが有り、これは低山であっても「観光の山」であっても変わりません。

なので、防寒対策に万全を期すのは当然のことながら、「悪天候であったら登らない」という勇気ある決断をして欲しいと思います。

例えば、遠路はるばる紅葉の山に来て、しかも素晴らしい紅葉の山が目の前に有る地点まで来ていながら天気予報は下り坂、今はまだ晴れ間も覗いてるのに・・・といった時こそ、直前まで天気予報(しかもその山の予報)を睨み、回復の見込みが無いのであれば、勇気を持って断念してください。

また、「山の天気」と謳いながら、例えば「風速・気温は麓の街のものです」なんていう場合も有ります。是非その山の管轄自治体や山小屋に山の状況を確認し、その人達のアドバイスも真摯に聞いてください。

 

私の所属した高校山岳部の部報の中に、「山は逃げない」というタイトルのコラムが有りました。そう、「山は逃げない」のです。今年がダメでも、来年もそこに山は有ります。

紅葉は日の光を浴びて最も美しく輝きます。天候か悪ければ無理をせず、「最も美しい紅葉」の機会を待ってください。

あらためて言いたいと思います。

「山は逃げない」

 

最後までご覧頂きありがとうございました。

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