山と写真と毎日と

アラフィフのおっさんが趣味の登山・写真・日常を綴るブログ。

山岳本としてではなく是非おススメしたい本。~大石明弘「太陽のかけら」~

こんにちは、GreenFielderです!

日曜日の夕刻、無事日本に帰国しました。今回は日曜発・日曜着の出張で、桜とミツマタが満開のこの時期に二度も週末を潰すという残念な結果となりました。トホホ。。

そのかわり、往復のたっぷりの機内時間に2冊の本を読破しました!

実は読みかけの本や、買ってまだ読んでない本も含めて全部で5冊も機内に持ち込んだのですが、読んだのは出張直前に買った2冊のみ。本当は「ぐるぐるねこ男」さんの以下の記事に触発されて数カ月前に購入して読みかけの村上春樹初期三部作」も読みたかったのですが、「山岳本の誘惑」に勝てず。。

「ハルキスト」になってしまった人の話 - 🌀ぐるぐるねこ男ブログ🌀

 

読み切った2冊はいずれもある意味「山岳本」なのですが、今回どうしてもご紹介したかった本はそのうちの1冊、以下の本です。

 

「太陽のかけら」~アルパインクライマー谷口けいの軌跡~

著者:大石明弘

 

谷口けいさんは、世界的な女性アルピニストで、2008年には優秀な登山家に送られる国際的な賞「ピオレドール賞」を受賞しています。

 

谷口けいさんを知ったのは、同じくピオレドール賞を受賞している山野井泰史さんを知ってからずっと後のことで、なんとなく山野井さんの出てくるYouTubeを探していた時に、たまたま谷口さんのインタビュー動画を見つけのが始まりでした。
しかし、その谷口さんが大雪山系の黒岳で遭難死したことを知ります。この本を読むとそれが2015年のことだったことがわかりますが、私の中ではとても最近のことのような記憶になっています。

その後、モンベルの書籍コーナーでこの本を見つけて、ずっと気になっていました。今回の出張を機に、「機内で読む1冊」としてこの本を購入したのです。


「太陽のかけら」は、主人公である谷口けいさんの、幼少の頃から43歳で生涯を閉じるまでに彼女と関わりを持った人々へインタビューをして彼女の起源と生き様を綴りつつ、谷口さんに魅了され、彼女の死後も「彼女の遺志を継いで何かを成し遂げよう」としている人々(含、著者)の姿を描くドキュメンタリーです。
谷口さんのどこに魅了されるのか。それは本書を読めばすごくよく分かります。私もアラフィフながら、自分の生き方について考えさせられました。


本書の中で、谷口さんがマナスル登頂時に発した「青空が素敵!」という言葉。私の愛読書だった沢木耕太郎の「深夜特急」最終巻での船上の場面で、最後に白人青年が発する「Breeze is Nice」(だったと思う)という言葉に似ているな、と思いました。
単純明快にして深みがある。そのその言葉の裏には、その場面に行きつくまでの色々な過程があって初めて重みがある言葉になっている。長い苦労の末の登攀でたどり着いたマナスルの頂から見る空の色が如何ばかりかを大いに想像させられる言葉だと思います。

しかし、本書で著者が訴えていることは、そんな谷口さんの華麗なる登攀記録ではないと思っています。谷口さんと何度もロープを結んだことがある著者。危険なクライミングでロープを結ぶというのは、余程信頼できるパートナーでなければできないものですが、「信頼できるパートナー」を超えた感情が著者にあったことが本書から滲み出ています。これは単純な異性への感情を超えた、人間としての愛があると思います。

 

本書は、時系列に話を進めていきません。谷口さんの幼少の頃からのエピソードと、登山におけるエピソードが交互に綴られていきます。

谷口さんが自分の殻を破っていこうとする幼少時代から学生時代にかけてのエピソード。アドベンチャーレースから登山に傾倒していき、ヒマラヤで数々の登攀記録を打ち立てていく経緯。BCスキーに挑戦したり、沢登りにもトライしたりと、自らを高めていこうとする強い意志。鈴木勝己、ペンバ・ドルジ、和田淳二との交流の中で見せる女性的な側面。「桂」と「けい」の間での葛藤。そんな谷口さんを暖かく見守る父親。谷口けいという人間の魅力に取り憑かれ、彼女の遺志を継ごうと前を向く男達。

 

・・・兎に角読んで欲しい!

 

インタビューの中で出てくる、「彼女が発した言葉」の一つ一つが胸に響きます。

なんでそんな言葉を発することができるのだろう。なんでそんなに強い意志を持ち続けることができたんだろう。なんでそんなに周りの人々に影響を残せる生き方ができたんだろう。それに対して自分はどうなのか。

そんなことを考えさせられる本書です。

 

人生の一瞬一瞬を大切に、やりたいことを妥協せずにやり抜き、結果として周りの人に大きな影響を与える、そしていつ死んでも後悔しない生き方。そんな谷口さんの生き方に自分を重ね合わせて、今からでもそういう人生が送れるのではないか、と思わずにはいられない、そんな本です。

 

私は、本書の最後の方、谷口さんが亡くなった後の著者を含む「遺志を継ぐ者達」の話、巻末の野口健さんの寄稿文、そしてさらに単行本化されて追加された著者の巻末の追記の部分(最近アラスカで亡くなった山岳カメラマン、平賀淳さんなどの話ですが)で何度も心を打たれ、目頭が熱くなりました。

 

皆さんはそれぞれに感じるところは違うかもしれませんが、少なくとも本書が「単なる山岳本」ではないことは納得して頂けると思います。登山を趣味としない皆様にも、是非読んで頂きたい本です。

 

以下の谷口さんの言葉(唯川恵の小説「一瞬でいい」の解説文を引用)はそのまま書かせて頂きます。

 

~~死に触れるたびに、生を尊く思う。・・(中略)・・生の大切さと素晴らしさを実感できる自分で良かったと、つくづく思う。生きられなかった人生の分まで、私は欲張りに生きたいな。全ての一瞬一瞬を、逃したくないって思うのだ~~

 

最後までご覧頂きありがとうございました!